シークレットな関係

オーディションの小説では、ヒロインの方が思いを告げていた。

私は、このままでいいの・・・?


マンションのエントランスでスッと離れた彼の横顔はいつもと変わらない。

変わったのは私だけ?


「・・・好き」


ポツリと呟いたら、傘を閉じた高橋の動きがピタッと止まった。


「本気か」

「好き、なの。言わずにいられないくらいに」


私を見つめる彼に戸惑いが見える。

やっぱり迷惑だったよね。


「・・・悪い、俺は」

「待って!言わないで!分かってる。これで契約終了だよね。気持ちを伝えたかっただけだから」

「櫻井、俺は」

「何も言わないで。今までありがとう。すごく勉強になったから、報酬はちゃんと払うね。あとで請求して」


彼の言葉を聞きたくなくて早口で言いたいことを並べ立て、振り返りざまに雨の中に飛び出した。


とうとう言ってしまった。

たった二文字だけど言うのが難しくて、契約終了まで隠しておこうとした言葉。

あんなにすんなり言えて、そして呆気なく終わった。

『悪い、俺は』のあとに続く言葉なんて簡単に想像がつく。

暫く走ったあと振り返ってみても、雨に濡れる暗い道が延びているだけで高橋が追いかけてくる気配はない。

雨が体に当たって痛い。

心も、痛い。

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