シークレットな関係

受付で渡されたオーディション用のシチュエーションは二つのパターンがある。

それぞれを暗記していると「桃瀬さんですよね?」と声がかけられた。

返事をしつつ顔を上げると、宇津木晴香がにっこり笑っていた。


「今日は桃瀬さんが参加されると聞いてて、ご挨拶しようとずっと探していたんです」

「あ、すみません。私の方がご挨拶に行かなければいけない立場なのに」


急いで立ち上がって「握手を」と差し出されている手をぎゅっと握った。


「よろしくお願いします。私、手加減しませんから。この役がどうしても欲しいんです」


そう言ってくる宇津木晴香の目は魅力的に輝いていて、ぞくぞくするくらいに美しく、女の私でも引き込まれてしまう。

これが、今旬の女優なのだ。

専務が負け戦と言っていたことも分からないでもない。


「私も負けません」


開始時刻になり若い番号から順番に呼ばれていき、とうとう私の番になった。

台詞は暗記している。

シチュエーションもバッチリ。

あとは実力を出すだけだ。


「では、Aパターンの方をお願いします」


居並ぶ審査員と相手役の俳優さんを前にすごく緊張する。

でももう昔の私ではない。

深呼吸をひとつして、役に入りこみ演じきった。


「ありがとうございました」


私が部屋からでると、宇津木晴香が入れ替わりに入った。

実力は出せたと思う。

あとは、結果を待つだけ・・・。


< 91 / 119 >

この作品をシェア

pagetop