シークレットな関係
受付で渡されたオーディション用のシチュエーションは二つのパターンがある。
それぞれを暗記していると「桃瀬さんですよね?」と声がかけられた。
返事をしつつ顔を上げると、宇津木晴香がにっこり笑っていた。
「今日は桃瀬さんが参加されると聞いてて、ご挨拶しようとずっと探していたんです」
「あ、すみません。私の方がご挨拶に行かなければいけない立場なのに」
急いで立ち上がって「握手を」と差し出されている手をぎゅっと握った。
「よろしくお願いします。私、手加減しませんから。この役がどうしても欲しいんです」
そう言ってくる宇津木晴香の目は魅力的に輝いていて、ぞくぞくするくらいに美しく、女の私でも引き込まれてしまう。
これが、今旬の女優なのだ。
専務が負け戦と言っていたことも分からないでもない。
「私も負けません」
開始時刻になり若い番号から順番に呼ばれていき、とうとう私の番になった。
台詞は暗記している。
シチュエーションもバッチリ。
あとは実力を出すだけだ。
「では、Aパターンの方をお願いします」
居並ぶ審査員と相手役の俳優さんを前にすごく緊張する。
でももう昔の私ではない。
深呼吸をひとつして、役に入りこみ演じきった。
「ありがとうございました」
私が部屋からでると、宇津木晴香が入れ替わりに入った。
実力は出せたと思う。
あとは、結果を待つだけ・・・。