四百年の誓い
 そして、


 「いずれにしても徹頭徹尾、物分りのいい女でいてもらわないと困る。紫(むらさき)のように」


 紫、すなわち優雅の母親。


 丸山乱雪の愛人……。


 「重ねて言っておくが、たとえ別れることになったとしても、マスコミに暴露したりしないように。そのような行為に及んだ時は、こっちにも考えがあることだけは念頭に置いておきたまえ」


 「そんなこと……! するわけないじゃないですか」


 たとえどんな目に遭わされようと、恨みや憎しみの矛先を優雅にだけは向けたくはなかった。


 「大学卒業後の就職先は、私のほうで調達してあげよう。京の結婚相手として、結婚までは箔がつく職歴を手にする必要もあるしね」


 「はい……」


 美月姫は小さな声で答えた。


 それが、優雅との未来をあきらめる代償。


 「そして後腐れなく別れてくれたら、次はこの京との婚約発表だ」


 「……」


 「君の人生で一番美しい時期を、こちらの都合で引っ張りまわしてしまう結果になることに関しては、私も責任を感じているのだよ。最大限の埋め合わせはさせてもらうつもりだ」


 (優雅くんなしの未来の穴埋めなど、誰にもできないのに)


 美月姫は内心、そう思った。


 でもここで丸山に逆らっても、何も得られない。


 この場は我慢して、何事もなくやり過ごすことにした。
< 196 / 395 >

この作品をシェア

pagetop