四百年の誓い
 「……紫の件に関して、君の忠告を心に留めておこう。未だに精神的に不安定な状態が続いているようなので、今後も見守っていこうと思う」


 丸山はそう締めくくった。


 「それでは、また会った時はよろしく頼むよ」


 「あの、せっかくここまでいらしたのですから、せめて両親にご挨拶でも」


 「いや、騒ぎになるからやめておこう。お嬢さんのほうから、よろしくお伝え願えないか」


 「了解しました」


 「ではこの辺で。京、運転手をお願いしていいのかね。せっかく愛しの婚約者に会えたのだから、今夜一晩一緒に過ごしてもいいのだが」


 「結構です」


 京は即座に却下して車のエンジンをかけ、程なくベンツは夜の闇へと消えていった。


 美月姫はしばらくの間、寮の前に立ち尽くしていた。


 夏の夜風は心地よく、曇っていて星のない藍色の夜空の下を吹き抜けていた。


 丸山に買い与えられた衣装を身につけたまま、片手には昼間着ていた衣服の入った紙袋を抱えて。


 ドレスはスカート丈が短く、夜風にあたると肌寒い。


 低めとはいえヒールは慣れないので、長時間履いたままでいるのはきつかった。


 「ただいま」


 家に戻った美月姫を迎えに出てきた母親が、出かけた際とは全く異なる装束で帰宅した娘を見て、仰天したのは言うまでもない。
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