四百年の誓い
 去年の春、最後の雪の夜。


 何も言わずに、美月姫の前から消えた人。


 もう二度と会えない人とあきらめて、新しい人生を歩み出そうとしたのだけど……できなかった。


 「つらくなるから、もう函館には戻らないつもりだった。だけど母さんがあんなことになってしまい、帰らないわけにはいかなくなって」


 母親を見舞い、容態が安定したのを確認した後、母校にも顔を出した。


 今まで数え切れないメールを無視してきた非礼を詫びるために、圭介の元へ。


 しかし入れ違いで、圭介は部活の引率のために出かけた後だった。


 やむなく帰宅しようとしたら、学園の中庭の満開の桜は、あまりに綺麗で……。


 しばし目を奪われていると、奥から人影が。


 それは懐かしく、愛しい人の幻影。


 ……ではなくて紛れもない本人だった。


 一度は背を向けたはずの夢なのに、出会ってしまうとかつての決意は砕け散ってしまった。
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