その時にはもう遅かった
「ね。」

そう言って目を細めるとまた焼き鳥を頬張る。

何てことだ。

夏目くんの言うとおり嫌じゃない私がいる。

「な、何で?」

溢れ出した感情がついに私の限界を超えた。

「私のどこが好きなの?ていうか本当に好きなの?」

「…神崎さんが好きだって何回か伝えたと思うけど。」

「それは…っ!確かに聞いたけど…でも特に連絡先を聞こうとしないし…。」

無闇に触れようともしないし。

そう消えそうな声で呟くと私の視線は下がっていった。

「連絡先を聞いたとして…メールやラインだと無視が出来る。」

着信もだね、そう続ける夏目くんの言葉に私はまた顔を上げた。

「でも直接伝えることで神崎さんは俺から逃げることが出来ず考えるしかなくなる。それに。」

そう言って夏目くんは手を伸ばし私の頬に触れる寸前で止まって顔を覗きこむように首をかしげる。

「触れたらそれだけが強く残って伝えた筈の大切な言葉も吹き飛んじゃうかもしれないからね。」

離れていくて手の気配を感じながら私の心は妙な胸騒ぎを覚えていた。

残念、なんて考えてる。

私いま触れて欲しかったって思ってるの?

自分でも信じられない衝動に思わず両手で口を隠して視線を泳がせた。

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