あなたの愛に深く溺れてしまいたい
「初めまして、だよね。松谷謙(まつやけん)。柴咲とは同期なの。よろしくね」


そう言って名刺を渡された。けど、私には名刺がなく、あたふたしながらも自己紹介をした。


「は、初めまして。あの私、普段事務で外に出ることがないもので、名刺がなくて申し訳ないのですが、春野冬乃と申します。今日はなぜだか、柴咲課長に拉致されました」

「ぶっ…!」


最後に柴咲課長を見て〝拉致られた〟ことを言うと、松谷さんは盛大に吹いた。


一方の柴咲課長は、顔色ひとつ変えず仏頂面。


「なに柴咲、お前のお気に入り?」

「どうしてそうなる」

「だって拉致とか……、くくっ!」

「………」


松谷さんが笑いを堪えながらも、漏らしてる声に柴咲課長は思いきりため息をついていた。


「それにしても柴咲、大変だったな。急だったんだろ?」

「あぁ」

「まぁ、通えなくもない距離だけど、こっち引っ越してきたのか?」

「いや、とりあえずホテル泊まる。休みの日使って、近くの部屋探す」


そっか。急だったから引っ越しも出来なかったんだ。


ホテル生活って、したことないけど疲れちゃいそう…。


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