あなたの愛に深く溺れてしまいたい
そう言うと彼は私の背丈に合わせ、屈みこむと触れるだけのキスをした。


「なぜ泣く」

「ぁ…」


触れるだけのキスだったのに、感情が込み上げてきて、私は柴咲課長の前でポロッと泣いてしまった。


「柴咲、課長…」

「なんだ」

「あなたに…溺れたいっ、」


そう言った途端、柴咲課長の顔色が変わり、彼は一度離した私の手を握るとマンションの中へと進んだ。


エレベーターの中に入り、5階を押すと柴咲課長は何かが切れたように私を壁に押し付け強引に口付けた。


誰かに見られたら…という不安と。このままずっとこのキスに溺れていたいという思いが同時に溢れ出す。


ポンという音と共に、扉が開くと柴咲課長の唇がゆっくりと離れ繋いだ手を握り直すと無言でエレベーターから連れ出された。


そして505号室の前に立つと、柴咲課長は鍵を出し開けると、私を部屋の中に招いてくれた。


「なぜ泣いたのか、聞いても構わないか」


< 88 / 99 >

この作品をシェア

pagetop