ベタベタに甘やかされるから何事かと思ったら、罠でした。



父は母にぞっこんだったので、葬儀のあとは涙に暮れていた。お父さんこんな泣き方するんだ……と驚きで私の涙が引いてしまうほど、父の悲しみ方は激しかった。



それが最近になって、ようやく立ち直ったと思ったら。



母がいなくなって、少し広くなった気がするマンションのリビングで。二人きりの食卓で。私が作った鯵の煮付けに箸を伸ばしながら父は言ったのだ。



「引っ越そう」

「……うん?」



まぁ確かに。二人ならこの部屋の広さはいらないよなぁ……と思ったから、特に反対もしなかった。部屋は父が決めると言うので、それも特に止めずに任せることにした。



そしたらどっこい。

荷物と共に私が送り込まれたのは大きな大きな祖父の家だった。



「……お父さん?」



うんざりするほど大きな門の前で、〝どういうこと? 〟と視線で責めると「お前母さんに似てきたな……」と寂しそうな顔をされる。違う、そうじゃない!


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