ベタベタに甘やかされるから何事かと思ったら、罠でした。
柔らかい物腰と、母に怒られているときの困った顔。それからなぜか私には少し意地悪をする彼を、私は簡単に好きになった。
大学を卒業するタイミングで、ダメ元で告白した。絶対に困ったような顔をして断るものだと思っていたら、彼は私にキスをして言ったのだ。
『うまく隠し通せますか?』
意地悪く笑ってそう尋ねる声に、頷く以外の選択肢はなかった。
それからもう5年近くが経つけれど、未だに彼が自分のものになった気がしない。父の目を盗んでたまに会う時間をつくっても、大体は食事か映画か。キスはしても、それ以上のことをちょっとだけしても、最後までは決してしなかった。
そのせいで私は不本意ながら、この歳になっても処女だ。
手を出されないのは私が社長の娘だからか、それとも元からさして興味がないのか。
こだわりはないんだろうなぁ、と思う。だって婚約者の存在に顔色ひとつ変えない。