ベタベタに甘やかされるから何事かと思ったら、罠でした。
予約していたレストランにキャンセルの電話を入れて、用意していたネクタイとカフスは……まぁ、いつか渡す機会もあるだろうと鞄の中に入れたままにしておく。
“何も用意していない”なんていうのは強がりだ。
本当は一か月前から……もしかしたら、それ以上前から。すごく今晩のことを楽しみにしていた。だけど泣いてお願いしたからって、彼が父より私を優先させることは絶対にないだろう。天地が引っくりかえってもない。
就業後の予定が綺麗さっぱりなくなってしまった私は、まっすぐ自分の住むマンションに帰った。雨は降らなかった。春海さんに持たされた折り畳み傘と新田さんへのプレゼントが、狭い私の鞄の中で場所を取り合う。重いなぁ、と少し邪魔に思いながら帰路を行く。
定時に会社を出て、マンションの最寄り駅についたときにはもう日が暮れかけていた。春になって随分日が長くなったなぁ、と感じながら、マンションの近くの小さな公園を横切ろうとしたとき、見覚えのある人の姿を見つける。