ベタベタに甘やかされるから何事かと思ったら、罠でした。
「……」
どうしようかな、と一瞬だけ迷った。だけど、見つけたその人の姿が意外だったので、私はくるりと進行方向を変えて彼に近づくことにした。そろりと気づかれないように気配を消して。
五センチのヒールでじゃりっと砂を鳴らしてしまわないように注意しながらすぐ傍まで。ベンチに座っている彼はぼーっとしていてまだ気づいていない。悪戯が成功した気分になってニヤッとしてしまうのを誤魔化しながら声をかけた。
「――春海さん」
「……え!? っ、わ、ひなちゃん。早いね! お帰り……」
私の呼びかけに反応した春海さんは慌てて左手を背中の後ろに隠した。もう遅い。私は意識的に意地悪く笑って彼に話しかける。
「意外です。春海さん、タバコ吸うんですね」
「……不覚だ。こんなに帰りが早いなんて聞いてない。今日デートじゃなかったっけ?」