ベタベタに甘やかされるから何事かと思ったら、罠でした。
一瞬で着替えた自分の姿を玄関の姿見に映す。ぼろぼろだな……まぁいいか。手櫛で前髪をささっと整えて、玄関のドアを開けた。



「はーい。すみません、お待たせし……」

「あ、よかった。生きてた」

「……」



インターフォンを押し続けていたのは管理人さんだった。

……まぁ、ちょっとそんな気はしてましたけど。




「……春海さん」

「うん」

「春海さん、ストーカーで訴えられたことないですか?」

「今んとこはないかな!」

「へぇ……」




今までも顔で許されてきたんだろうか? そんな馬鹿な……。

彼の鈍感な「ん?」という顔を見て、やっぱり今この人と話す元気がないなぁと思う。




「春海さん、ごめんなさい。私、今日はもう本当に……疲れ」

「あれ? なんで手足濡らしてんのひなちゃん」

「……話を聞いて! あなたが! シャワー浴びようとしたところにしつこくインターフォン押してくるから!」

「あぁ、そういうことか。ごめんごめん」

「……」



悪意のない笑顔に、イライラはするけどちょっとずつ毒気を抜かれていく。自分ばっかり腹を立てているのが馬鹿みたいになる。


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