ベタベタに甘やかされるから何事かと思ったら、罠でした。

浴室に辿り着くと春海さんは、自分が穿いているチノパンの裾をくるっと丸めて折って濡れないようにした。キュッと締まった足首とくるぶしが見えて、ぼーっとしていた私は〝足早そうだなぁ〟なんて考えて。彼が裸足で浴室の中に入っていくのを脱衣所から見ていた。

彼は給湯器の電源を少し触ると、お湯を出すためにレバーを赤のマークがついている方へ捻る。ザーッと流れだすシャワー。

そこから、たった十数秒くらい。春海さんはシャワーを止めた。シャワーヘッドを壁に掛ける。そして私の方を振り返った。珍しく呆れた目をしている。……呆れた目? なぜ?



「ひなちゃん」

「はい」

「お湯、出るじゃん」

「……えぇ?」



うそ。思わず“そんなはずないでしょう”というトーンの声が出ていた。だって、どんなに試しても出なかったのに……。

信じられずに私も裸足のまま浴室の中に入る。足元は確かにあったかい気がする。



「給湯器の電源押し忘れてたんじゃない? 」

「押しましたよ!」




絶対におかしい!

そう思いつつもあっさりお湯が出たらしいことがなんだか恥ずかして、確かめようと自分でレバーを捻ってみる。



「待っ」



ザザーッ。

春海さんの制止を待たずしてシャワーヘッドから噴き出すお湯。シャワーヘッドは私の頭よりも高い位置にあって、だから当然の結果として。




「……」

「……」



二人ともずぶ濡れになった。
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