ベタベタに甘やかされるから何事かと思ったら、罠でした。


春海さんは服をびしょびしょに濡らしたままで、そっと私のこめかみにキスをする。それを両手で防ごうとする私の服も、お湯でびしょびしょに濡れていてずっしりと重い。



「……キス、やめてください」

「んー……? やだよ」



そう言っておかしそうに笑って、ちゅっ、ちゅっと、こめかみから目尻に。目尻から頬に。頬から唇の端にと、キスを降らせる。



「春海さんっ……」

「ねぇ、なんで帰ってきたとき死にそうな顔してたの?」

「っ……」



服がお湯を吸って、ずっしりと重くて。身動きが取りづらい。



「何があったか教えて」



そう言って優しいキスをやめない。口の端を舐めても、前みたいに強引に唇を奪うことはしない。顎にキスをした唇が、また目尻に戻って涙の跡を舐める。べろっと舐められる感触にぶるっと体を震わして、「やめて」と制止するべく私は春海さんの腕にしがみついた。

だけど春海さんはやめてくれない。私が掴んでいるから動かしにくいであろう手で、俯いた私の頭を撫でた。それを振り払おうと上を向くとまた目尻にキスされる。



「~っ」



頭上から柔和な声が降ってくる。



「……当ててあげようか、何があったか」

「っ、いや」

「ひなちゃん」

「春海さん、やめてっ」



「失恋したんじゃないの?」


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