ベタベタに甘やかされるから何事かと思ったら、罠でした。
「そっか、そういえばそうだね……。まぁ細かいことはよしとしようよ。一回やってみたかったんだ」
「……!」
マイペースすぎる……!
衝撃を受けている間に、管理人さんはにこにこと嬉しそうに一歩、玄関の敷居を超える。
私は体を壁にぶつけないように縮こまりながら、彼をあごの下からじっと見上げていた。
きっと、この人は。自分の顔の良さでこのマイペースさが許されていると自覚しているんだ。タチが悪い。
そう思いながら、あごから続く輪郭や、首の細さに釘付けになる。
「……ひなちゃん意外と」
「……え?」
「着痩せするタイプ? なんか見かけのわりに……むっちりしてるというか」
「お……降ろしてっ!」
管理人さんはタチが悪くマイペースで、ちょっと変態だった。
管理人さんに指摘されたように、運び込んだ荷物はベッドと段ボール2箱だけ。他はこれから揃えるつもりで、最低限の荷物だけで家を出てきた。急遽決めた引っ越しだから仕方がない。
持ってきたハンドバッグの中で、スマホがひっきりなしに震えている。
父だ。
私は父が接待ゴルフに出ている間に、逃げるように家を出てきた。
「先週入居したいって連絡があって、〝すぐにでも住めますか?〟って訊いてきたんだってね」
「えぇ」