花盗人も罪になる
変な誤解をされても困るから、家まで送るのは今回だけにしておこう。

逸樹がそんなことを考えていると、円がその道の先にあるアパートを指差した。

「あのアパートです」

駅からアパートまで15分と言っていたが、実際の時間より長く感じた。

「私が鍵を開けて玄関に……」

「玄関に入るまで見届ければいいんですね?」

逸樹が尋ねると、円は申し訳なさそうに目を伏せた。

「いえ、あの……一度玄関に入ってもらっていいですか?」

「いくらなんでもそれは……」

「お願いします! ほんの少しでいいんです! もしかして部屋の中に誰かが潜んでいるかもって思うと、いつも一人で家に入るのがすごく不安なんです」

いくら逸樹が上司とはいえ、彼氏でも友達でもないのに、ずいぶん厚かましいお願いだ。

しかしこんなに不安がっているのに、そのままにしておくのはかわいそうだとも思う。

とりあえず家の中に異常がないことを確かめたらさっさと帰ろうと、逸樹は渋々ではあるがそのお願いを聞いてやることにした。

「わかりました。少しだけですよ」

円はドアの前で辺りを見回して鍵を開けた。

ドアを開けて部屋の中に入り、逸樹を招き入れる。

ドアを閉めると、円は玄関の鍵を締めて部屋の灯りをつけた。


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