花盗人も罪になる
ベッドに入ると逸樹は昔何かの本で読んだ話を思い出し、紫恵を腕枕しながらその話をした。

「人んちの庭に咲いた花でも、美しければ欲しくなるのは人のサガというか、罪を犯してでも欲しくなるほど美しかったんだから、それは仕方がないって」

「なあに、それ?」

突然なんの話だろうと、紫恵は逸樹の目を見て尋ねた。

「盗まれた方はそれだけの美しい花を咲かせたってことが自慢になるから、花盗人(はなぬすびと)は罪にならないって昔の人は言ったらしいよ」

「そうなの?」

人の物を盗んでも罪にならないとはおかしな話だ。

紫恵はなんとなく腑に落ちない。

逸樹は眉を寄せている紫恵の頭を優しく撫でる。

「でもやっぱり……どんなにその花が美しくても、人の物を盗むのは罪になるって、俺は思う」

「うん、そうだね」

逸樹が同じように考えているとわかった紫恵はどことなく嬉しそうだ。

「夫婦って一緒にいると考え方も似てくるのかな?」

「そうかも。誰が見てもかわいいのはわかるけど、俺はしーちゃんを誰にも()られたくない」

新婚でもないのに、恥ずかしげもなく妻をかわいいと言うなんて、自分は逸樹に溺愛されている。

そう思うと照れくさいような気もするけれど、やっぱり嬉しいと紫恵は思う。


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