花盗人も罪になる
逸樹の目には、紫恵が自分のことのように心を痛めているように見えた。

周りの人に心配かけまいと痛みを我慢して大丈夫だと笑う時のような、そんな顔をしている。

逸樹は少し寂しそうに話す紫恵を抱きしめた。

「心配しなくても、俺はしーちゃんから離れたりしないよ」

「いっくん……」

「俺としーちゃんは、ずっと一緒に生きていくんだから」

「昔の彼女とか……すごく好きだった人とまた出会っても?」

紫恵がためらいがちに尋ねると、逸樹は紫恵の頬を両手で包み込んで笑った。

「しーちゃんより好きになった人もいないし、これからもしーちゃん以上の人なんか絶対に現れない。俺にはしーちゃんしかいないよ」

付き合いだしてから何年経っても、逸樹の紫恵への愛はブレることがない。

逸樹はいつでも、ほんの些細なことで不安になる紫恵を優しく抱きしめて、どれくらい紫恵を愛しているかを伝えて安心させてくれる。

「もしいっくんが他の人を好きになったから別れて欲しいって言っても、私はきっと真理子さんみたいに送り出してあげられない……。思いきり泣きわめいて、行かないでってみっともなくすがっちゃうと思う」

「そんなの俺だって同じだよ。しーちゃんを手放したくないもん。もしかしたら逃げられないように縛り付けちゃうかも……」

冗談とも本気ともつかない逸樹の言葉に、紫恵は思わず吹き出した。


< 163 / 181 >

この作品をシェア

pagetop