花盗人も罪になる
「俺としーちゃんはののちゃんの親ではないけど、ののちゃんはきっと特別だって思ってくれてるよ」

「うん。幸せだね」

そう言って穏やかに微笑む紫恵を、逸樹はそっと抱き寄せた。

「それで……しーちゃんはののちゃんにそんな心配されるほど何を悩んでたの?」

「えっ? 別に何も……」

「隠したって俺にはわかるよ?」

逸樹は少し笑って、優しい目で紫恵の目を覗き込んだ。

どうやら逸樹の目にはなんでもお見通しのようだ。

希望だけでなく逸樹もまた、紫恵の心の微妙な変化を敏感に感じ取る。

愛する人にすべてを見透かされていることや、悩みと呼べるかどうかもわからないほどの小さな悩みを共有できることは、幸せなことかもしれない。


紫恵は逸樹の手を握りゆっくりと話し始めた。

「今日、手芸教室でね……」

手芸教室で聞いた真理子さんの夫の話や、息子たちの言葉、真理子さんが離婚を決意した理由を話した。

「真理子さんはね、ホントは今も旦那さんを愛してると思うの」

「うん」

「だけど旦那さんを愛してるからこそ、その望みを叶えてあげたくて離婚することに決めたんじゃないかなって」

「そうだね」

「前にいっくんと話したでしょ?花盗人も罪になるんじゃないかって……。真理子さんは大切に育てた花を盗まれて悲しいのに、それを許してあげたんだなって思うと……なんていうか……」


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