花盗人も罪になる
「近田さん、ありがとうございました」

逸樹はりぃのリードを香織に渡して軽く頭を下げた。

「いえ、こちらこそありがとうございました。ののちゃん、りぃとお散歩してくれてありがとう」

「また一緒にお散歩していい?」

「うん、いいよ。またお散歩しようね。それでは村岡主任、失礼します」

香織は逸樹に軽く頭を下げ、ののに手を振ってそこで別れた。


家までの道のりを歩きながら、香織は会社では見ることのない逸樹の様子を思い出して笑みを浮かべた。

優しくて子煩悩そうで、あんな人と結婚したらきっと幸せだろう。

いつか一緒に家庭を築くのは、逸樹のような優しい人がいいなと香織は思った。




香織が家に帰ると、母親が珍しく裁縫箱を出して、何やらゴソゴソしていた。

「お母さんがお裁縫なんて珍しいね。急にどうしたの?」

「この間、横山(よこやま)さんに誘われて手芸教室に行ったんだけどね。なかなか面白かったわよ」

「へぇ……手芸教室かぁ。いいね、楽しそう」

学生時代、香織は手芸に夢中になっていた。

小学生の時に家庭科でナップサックを製作したのをきっかけに、家でも簡単な袋物やティッシュカバーなどの小物を作っていた時期がある。



< 38 / 181 >

この作品をシェア

pagetop