花盗人も罪になる
「村岡主任は新婚ですか?」

「いえ、結婚7年目ですよ」

意外な返事に香織は驚いた顔をしている。

「えっ、7年目……?! 若いうちに結婚されたんですね」

「結婚した時は、子供なんて一緒に暮らしていればすぐにできるもんだと思ってました。でもね……どれだけ望んでも手に入らない物もあるんだって、初めて知りました」

逸樹は、どうして子供をあきらめたのかをゆっくりと順を追って話した。

妻の体質や不妊治療の末にやっと授かった子の流産を二度も経験したこと。

これ以上心身ともに妻に負担をかけさせたくないと、この先の長い人生を夫婦二人で生きると決めたこと。

それはまだ独身で結婚に対しておぼろげな夢を描いている香織には、かなりショックな話だった。

「子供がいないとね、僕も妻も、何年経っても新婚みたいでいいねって言われるんです。確かにそうかもしれないけれど……僕たちは心から子供を望んでいたから、それって残酷な言葉ですよね」

逸樹には子供がいないと聞いて、香織は同じことを思っていた。

悪気なく言ったなにげない一言で誰かを傷付けてしまうかもしれない怖さ。

当たり前だと思っていたことが、実は当たり前ではないという事実を初めて知った。


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