憑代の柩
「ああ……いえ、別に」

 黙り込んでしまったのは、あまりに予想通りの顔だったからだ。

 頭の中で思い描いていた顔、そのままだった。

 そして、要という存在もまた、予想通りだった。

 長身でがっしりとした体格。

 知的で、ありきたりに端正な顔をしている。

 つい、そちらを見ていると、

「いいから、鏡を見ろ!」
と、何故か苛ついたように衛が言う。

 彼の手には、紅い手鏡が握られている。

 それを受け取った私は黙り込んだ。

「なんだ、その沈黙は」
と気の短い衛がすぐに訊いてきた。

「ああ。いえ、ちょっと思っていた顔と違ったもんですから」

 どんな顔だと思ってたんだ、とでも言いたげな顔で、彼はこちらを見る。

「うーん。
 もうちょっと高飛車そうな美人を想像してました。

 だって、この人、貴方の婚約者なんでしょう?

 普通に可愛いじゃないですか!」

 自分が変えられた顔に、素直に安堵の声を上げると、彼は呆れたような顔をした。
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