俺様上司と身代わり恋愛!?


「あの……今日、茅野先輩の噂を聞いて……」
「噂?」
「はい。融資課の志田さんと誰かを二股かけてるって……それって本当ですか?」

おどおどした様子で視線を合わせた高橋さんに問われて、そういえばそんな噂があったんだっけと思い出す。
噂が立ったのは、そんなに前ではないのに、ここ数日間の内容が濃すぎてすっかり忘れていた。

「嘘だよ。私、二股どころか誰とも付き合ってないし」

高橋さんとはまだ知り合って半年だけど、コーチャーとして割とたくさんの時間を一緒に過ごしてきたから、多少は分かり合えてる気でいた。

だから正直、二股なんて噂を信じられちゃうなんて思ってなかっただけにショックはショックだった。
そんな女だと思われてたのかなって。

……まぁでも、私の元彼がひどいっていうのは今野さんが課で暴露してたから高橋さんも知っているし。
そんな人と付き合ってたなんて知れば、通常の感覚じゃないと判断されてもおかしくはないのかもしれない。

私が否定した途端、高橋さんはパアァッと一気に表情を明るくし目を輝かせる。

「本当ですか?!」と身を乗り出して聞く高橋さんに戸惑いながら「うん」と答えると……高橋さんは安心したように息をつき、それから笑みを浮かべた。

その様子を見て、あれっと思う。

高橋さんは、なんで今こんなにも安心しているんだろう。
そもそもなんで、噂なんて気にして私に聞いてきたんだろう。

私の事をコーチャーとしてそれなりに慕ってくれているのは知っている。
今野さんの私への態度に失礼だと腹を立てて怒ってくれていたから。

だけど……これは、この安心は、コーチャーをしている先輩が二股かけるような女じゃなくてよかっただとか、そういう理由じゃない。そう思った。

この安心は……多分、志田さんに対して、だ。



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