未熟女でも大人になっていいですか?
永遠に想い続けて
「蜜(みつ)姉さんが義兄さんに出会ったのは、丁度20歳くらいの頃だったと思う。勤め帰りを急いでいたところへ頭上からペンキが降ってきてね」


「ペンキ?」


「それってまさか……」


驚きで声も出せない私の顔を見つめ、小さく声を発する。


「そう。藤ちゃんのお父さんも左官工だったの。しかも出会った頃はまだ半人前で、刷毛に付けたペンキの量が多過ぎて路上にまで垂れてしまっていたの」


「あーあ」


高島は状況が分かるらしく、残念そうな声を上げる。


「その頃のペンキと言ったら油性塗料が主じゃない?姉は驚いて見上げ、その左官工を怒鳴った」



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『ちょっと!そこのあんた!!』


『はっ?僕ですか?』


『僕じゃないわよ!どうしてくれんのよ、コート!買ったばかりの新品だったのにペンキが付いてしまったじゃない!!』


『あ……』


『あ……じゃないわよ!とにかく早く降りて来て!!』


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「『勇ましかった』んだって。蜜姉さん」


伯母さんはケラケラと笑って、当時の父の言葉を反芻した。


「降りて来た義兄さんは、とにかくひたすら謝り続けたらしい。でも、姉さんは初任給で買ったばかりのコートに思い入れが強過ぎて諦めきれない。そこで散々文句を言った挙げ句、こう言い足したの」



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『新しいコート買い直して!』


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