未熟女でも大人になっていいですか?
「どういう意味ですか、それは」


失礼を通り越しているような気がしてくる。

『ヤマガタ ミツ』は「あはは…」と笑いながら肩を竦め、あっけらかんと答えた。


「オドオドビクビクしてばかりいるもんだから年下かと思ってたの!」


「オドオドビクビク?」


「うんっ!何だかバンビみたいだなぁって」


「バンビ!?」


「そう。ごめんなさいね」


あっさりした口調で謝り、ゴクゴクとストローでジュースを飲み込んだ。

こっちは文句の一つも言い返せず、呆気に取られたまま時間は過ぎていった。




「コートを買って頂いてありがとうございました。これで明日からの通勤が楽しくなるわ」


パーラーを出てデパートの出入口付近で御礼を言われた。


「いえ、僕もコーヒーを奢って頂きまして…」


「じゃあね!」


「えっ…」


(まだ完全に礼も言ってないのに去るって言うのか!?)


目線を上向きにすると、既に『ヤマガタ ミツ』の背中は2、3メートルほど先に進んでいる。


(……何て女だ)


素早いと言うかせっかち過ぎると言うか。


(でも……)


くくく……と笑いが起こる。



(面白い女だった)



最悪な出会いはそう悪くもない別れで終わった。


あっさり過ぎる程すぐに切れた縁は、その場限りであろうと思われた。


だから、あの場にこの女が現れた時は、一体何の天罰かと空を仰いだくらいだ。




「……人のことバンビ呼ばわりなんかして、ろくでもない華だったな」


呟いて背中を向ける。


ひょんな縁から出会った僕達の人生は、まだ袖の先が触れ合ったばかりだったーーー。




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