イジワル上司に焦らされてます
 



「そもそも、彼は前々から私に不規則な生活のデザイナーを辞めて欲しがってたし。それを理由に、私がずっと結婚を引き延ばしちゃってたから、余計にデザイナーでいられるのが嫌みたい」



言いながら、ビールジョッキについた水滴を指先で掬うマキの目が、一瞬、揺らいだのを私は見逃さなかった。


マキの彼は1年以上前、マキに一度、プロポーズをしていて。


けれどマキが「もう少し、デザイナーとして働きたいから」と、返事を濁したんだ。


それが今回結婚に至ったのは、彼が再度マキにプロポーズをしたからだということまでは、先の電話で聞いていた。



「彼の気持ちを考えたら、二度も返事を濁すわけにはいかないでしょ」



彼はマキの身体を心配して、結婚したらデザイナーを辞めて家庭に入ってほしいと願った。


そんな彼の気持ちをマキは重々理解していたし、彼のことがとても大切なのだとも言っていた。


仕事か、結婚か。

この二択を迫られたマキは、悩みに悩んで── ついに答えを出したということ。


  
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