イジワル上司に焦らされてます
「正直言って、仕事に未練がないと言ったら嘘になるよ?でも、結婚して家庭を守るとなったら、いつまでも自分本位ではいられないのはお互い様だし……」
そう言って、自嘲の笑みを零すマキを前に、何と返事を返したらいいのかわからなかった。
「仕事と結婚と、両立できたらそれが一番だと思う。だけど、私の彼はそれを望んでいなかった。だから、私が折れたってだけ。何より、今のまま仕事を続けるには、パートナーからの理解が必要不可欠だったから」
「理解が……」
「深夜1時帰宅も日常で、毎日残業続きで……なんて、やっぱり一般的な感覚では理解し難いよね」
「…………」
「欲しい物があれば、今ある何かを手放さなきゃいけない……ってこともある。それが私の場合はデザイナーという仕事だった。ただ、それだけのこと」
キッパリと、言い切るマキは、いつも言葉に嘘がなくて、自分の気持ちに真っ直ぐで。
昔から、自分が大切にしたいものを大切にできる女の子だった。
誰よりも自分という人間を、よく知っていて。
自分の限界や、自分が手の届く範囲をしっかり見極められる、自立した一人の女性。