エリート上司と偽りの恋
会社から駅までの道程には飲食店が数多く並んでいて、テレビや雑誌で紹介されたことのあるレストランなんかもある。

一本裏路地に入れば居酒屋も沢山あって、平日は特にそれらの誘惑に負けないように駅に向かうのが結構つらい。

私はその裏路地に入り更にもう一本奥の道へ入ると、普通のビルの前で立ち止まる。

「ここですか?お店なんてあります?」

「そう、ここの地下」


桐原さんが首を傾げている中、私がビルの端を指差すと、そこには地下へ続く階段がある。

看板も小さいし地味だし正直分かりにくい。

だけどこの店で出す料理はどれも美味しいくて、お刺身は新鮮だし定番の唐揚げも衣のサクサク感とお肉のジューシーさがたまらない。

女子がすきなカクテルから日本酒までお酒の種類も豊富だ。

それなのに割りとリーズナブルなところが、OLひとり暮らしの私にとってはありがたい。


十人座れる座敷がふたつ、その真ん中にあったふすまを店員さんが開けると、私たちは注文などがしやすいように一番手前に座った。

「なんかもっとお洒落なイタリアンとかの方がよかったんじゃないですか?なんてったって主任はニューヨーク帰りだし」

私の向かいに座った桐原さんが、お店の中を見渡しながら言った。

「それも思ったんだけどね、焼酎しか飲まない部長がワイン飲んでる姿なんて想像できないし」

「あーそれもそうですね。主任早くこないかな~。迷ったりしないか心配」

待っている間、桐原さんは何度も何度も入口を確認している。


しばらくして新海君からLINEが届いた。

【今から出まーす。あの分かりにくい店だよな】

新海君とは何度かこの店に来たことがあるから、迷子にはならないいはず。


それから十分後、部長を先頭にぞろぞろと営業のメンバーがお店にやってきた。


さっきからずっと、私の胸の鼓動がいつもより早い。

ゆっくり呼吸をしてるのに、どうしてこんなに激しく波打つのか、自分でも分かってるけど……。


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