エリート上司と偽りの恋
「先始めててよかったのに」

一番奥の席に「よっこいしょ」と言いながら座った部長。


「加藤この店好きだよな」

「だって、おいしい……んだもん」

新海君の言葉に答えた私は、そのうしろに主任の姿を見つけた瞬間、声のボリュームを下げた。もちろん無意識に。


「お疲れさま、今日はありがとね」

「あ、いえ、はい」

篠宮主任の顔を間近で見るのは、やっぱ無理。どうしても視線を逸らしてしまう。


「しゅにーん、ここ座ってください」

桐原さんが自分の隣を指さしている。いっそこのまま桐原さんと主任が付き合ってくれたら楽なのに。


「あー、そういうのいいや。仕事の話できないし」

主任は一瞬桐原さんを見たけど、すぐに逸らして部長の近くに座った。

でた、あの冷たい目。さっきは優しい雰囲気だと思ったのに、急に切り替わる表情が怖すぎる。


「はぁ、やっぱ主任かっこいいです。あのクールな感じたまんない」

私も桐原さんくらいポジティブだったらなー。

もし今の言葉と視線が私に向けたものだったら、心折れまくりだわ……。


「みんな飲み物きたかな?乾杯の前に、今日早速篠宮主任が新規の契約を取ってきました。やるやるとは聞いてたけど、まさか初日に契約取ってくるとはな。ガッハッハー」

部長、相変わらず面白い笑い方。部長の言葉を聞いて、営業のみんなは悔しそうな表情をしたり憧れの眼差しで見ている人もいる。

新海君は前者だった。最近悩んでたから、同期だし新海君にはがんばってほしいな。


そう思いながら前を見ると、主任の背中がよく見える。

よかった……。背中だけならなんとか耐えられる。




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