エリート上司と偽りの恋
ーー

家に着き一目散にベッドに倒れた私は、桐原さんに言われたことを思い出していた。


『挨拶って、だって話しかけられてたの加藤さんだけですよ?ずっと目で追ってたから間違いないです』


私にだけ……?


『私も喋りたいから篠宮さんに近づいたのに、〝分別するならペットボトルのラベル剥がしなよ〟って氷みたいな目で言われてそのまま帰っちゃいましたよ』

氷みたいな目……なんかじゃなかった。私がみた篠宮さんの目はもっと柔らかくて……。


『でもあの鋭い目に冷たい喋り方が逆にたまんないですよー。俺様系大好き!』

喋り方も、すごく穏やかだった気がしたけど……。

あれは驚きすぎてしまった私の勘違い、又は妄想だったんだろうか?


私の目に映った篠宮さん……。スーツのよく似合う長身、涙袋がハッキリとした二重瞼を際立たせていて、鼻筋がスッと通った高い鼻に唇と顎の間にあるほくろがなんともセクシーで、程よい長さの黒髪が素敵だった。

そんなにじっくり見たのかと言われたら、はい見ました。

自分がなんて言ったのかは覚えていないけど、篠宮さんの顔だけはハッキリ覚えてる。

それに加えてあまりにも穏やかで優しい声に、全身の力が抜けてしまうのを感じた。


こうしてベッドの上で目を瞑っても、篠宮さんの顔が浮かんでしまう。

でもダメ!騙されない、絶対好きになんてならない。何度も同じ間違いをするほど私だって馬鹿じゃないんだから。


同じ職場といっても営業はあまり会社にはいないし、仕事のこと以外で話す機会なんてそんなにない。篠宮さんは主任として異動してくるんだから尚更忙しいはず。


それに、そもそも普通中の普通の私が相手にされるわけない。

気にすればするほど感情が〝そっち〟に向いてしまうんだから、気にしない……気にしない……。

明日から篠宮さんのことを、イケてるパンダだと思うようにしよう!




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