常務の秘密が知りたくて…
 ワインがグラスに注がれ軽く乾杯をする。食べながらも話していた通り常務から様々な質問をしてくれたので会話には困らなかった。

 家族構成や会社を志望した理由、幼い頃の話や学生時代のことまで。自分のことは一切話してくれないのに、私のことはそれこそインタビューばりに色々訊いてくる。

「お前にとって一番の古い記憶ってなんだ?」

 その中で、この質問は本当に突拍子もないものだった。むしろ今までこんなことを尋ねられたことなんてない。

 そんなことを訊いてどうするのか、どういう意図なのか。訝しがりながらも嘘をついてもしょうがないので改めて自分の記憶を懸命にたどってみる。

「断片的ですけど、二、三歳の頃に近所の公園で砂遊びをしている記憶でしょうか。なんでそんなことを訊くんですか?」

「特に意味はない」

 意味がないのに尋ねる質問ではないと思うのだけれど。そこで初めて私は尋ね返してみた。

「常務はどうなんですか?」

「生まれる前から覚えている」

 あまりの即答ぶりに私は思わず吹き出してしまった。常務でもそんな冗談を言ったりするんだ。しかも真顔で。

「すみません、私は常務ほど記憶力がよくなくて」

「全くだな」

 私の笑いは止まらなかった。そのおかげで少しだけ緊張が解れた気がする。

「常務もまめですよね。お忙しいのにいちいちこうして秘書との時間を取ってくださって」

「まめならこうはなってないだろ」

 こう、というのがどういう意味なのかはわからなかったが、今までの秘書たちにも同じようにしてきたんだろうか。そういえば――
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