常務の秘密が知りたくて…
 ここで何か一つ甘い言葉でも、愛の囁きでも、小さな約束でもしておけばよかったんだ。そうすれば、何かが変わっていたのかもしれない。少なくともこの行為の意味をはっきりさせることはしておくべきだったんだ。

 いきなり扉がけたましく叩かれて声が聞こえた。

「ヒューゲル隊長、お休みのところ申し訳ありません。緊急召集です。すぐにいらしてください」

「わかった、すぐにいく」

 急いで支度をしなくてはならない。気付けばエリスは来たときと同じ格好で扉のところに立っていた。

「カイル、色々とごめんなさい。貴方が守りたいもの、私も守ってみせるから。だから気を付けて。どうかご武運を」

「おい」

 何か言おうとする前にエリスは扉を開けて行ってしまった。帰ってきたとき、エリスはもう嫁いでしまっているのか。もう二度と会うことはないのか。いや、そこまでは――

 しかし妙な胸騒ぎは遠征に出た後もずっと続いていた。

 敵軍を制圧しかかったところで、その情報は届いた。どうやら我々をこちらに誘き寄せて、本当に目的はその分、手薄くなっていた王家そのものだということを。急いで馬を走らせて国に戻ると城の入り口のところで女の叫び声が耳を突いた。

 大広間で見た光景は半狂乱になって何かを叫んでいる王女を必死に押さえている国王陛下たち、捕らえられている二人の男、そして――

「エリス!」

 見間違えるはずなんてない。王女の傍から前に五歩ほどのところに、身体を投げ出して倒れているのは紛れもなくエリスだった。急いで駆け寄り傷を確認するが、着ている服はもちろん辺り一面の絨毯の色が変わるほどの出血量だ。
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