常務の秘密が知りたくて…
 滞りなくエリスの葬儀が終わり、久々に自室に戻ってゆっくりすることが許された。そこで部屋の机の上に置かれているものに気付く。あのときエリスが持ってきた酒だ。

 唇を噛み締めるとそれを思いっきり払い除けた。勢いよく宙に投げ出された酒瓶は重力に従ってそのまま床に叩きつけられる。

 瓶が割れる不快な音と中身が溢れ出して部屋は一気に酒臭くなる。でも今はそんなことはどうでもいい。

『カイル、言ったでしょ? 旨い酒を飲んでいるときと、いい女を抱いているときが幸せなんだって』

「そんなものはいらない!」

 誰もいない部屋で俺は一人叫んだ。

「いらないんだ」

 頬に冷たいものが伝っていく。自分が泣いているのだと自覚するまでに幾分か時間を要した。それを皮切りにエリスとのやりとりが次々に思い出される。

『カイルは? カイルの幸せって何? どんなときが幸せ?』

『それよりもカイルが私のためにわざわざ持って帰ってきてくれたことの方が嬉しい!』

 エリスの笑顔が浮かぶ度に後悔の波が押し寄せて、心を責め立てていく。

 俺が剣なんかを教えなければ、エリスは死なずにすんだのか? あの手に剣を握らせたのは俺だ。あの白くて華奢な手を赤く染めたのも。

 名前ぐらい呼んでやればよかった。菓子一つであんなに喜ぶなら、もっと渡してやればよかった。エリスが部屋に来たとき、もっと違う言葉をかけてやれば。

 あいつは何を望んで俺に会いに来たんだ? 俺は本当はエリスに何を言いたかったんだ?

『貴方が守りたいもの、私も守ってみせるから』

 違う、俺が本当に守りたかったのは――
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