常務の秘密が知りたくて…
「いない」

 小さく呟いた俺に彼女は目を丸くしてこちらに顔を向けた。そして大きく見開かれて不安の滲むその瞳を真っ直ぐに見据える。

 そう、いないんだ。どこを探したってエリスはいない。代わりだっていない。そして

「お前の代わりなんてどこにもいない」

 同じように彼女の代わりもいない。どうして傍においたのか、代わりにするつもりなんてなかった。したいわけじゃない。

『行くな!』

 あの暗闇の中で、手を離したらまた失うんじゃないかと思った。だから手をとった。掴み損ねた手がそこにはあって、でもそれは代わりだからじゃない。

 そっと彼女を抱き寄せてその細い肩に顔を埋めた。

「お前は覚えていないけど俺たちは昔、会ったことがあるんだ」

 いつ、どこで、というのは言えないが、それでも出来るだけ正直に自分の気持ちを話す。ちゃんと彼女に伝えるために。

「あれから時間が経ちすぎて、お前は俺のことも覚えていないし別人になっていて、ずっと戸惑っていた」

 だから、どういう風に接すればいいのかわからなかった。彼女の中にエリスを探したりもした、けれど

「そうだな、昔なんて関係ない。お前はお前だ。いつも人のことばかりで、負けず嫌いで、それでいて一生懸命で。そんなんだから」

 今、彼女がどんな表情をしているのかわからない。柔らかい髪からほのかに甘い香りするのを感じて顔を上げた。

「傍にいて欲しいと思ったんだ」

 口にした途端、今まで囚われていた何かがゆっくりと溶けだして沁みていく。そして至近距離で見つめていた彼女の瞳が揺れて、大粒の涙が頬を滑り落ちていった。
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