常務の秘密が知りたくて…
「なんで泣く?」

 泣かせてしまったことに少しだけ焦ったが彼女は気にする素振りもなくそのまま首を軽く横に傾げた。

「常務がそんな風に笑うからじゃないですか」

 そう指摘されるまで自分が笑ったことに気付かなかった。


『出会わなければよかった』

 本当はずっと会いたかった、ずっと探していた。


『なんで俺の望みはいつだって叶わないんだ』

 俺の望んでいたものは今、目の前にこうしてあるのに。こんなにもずっと求めていたのに。


 そして色々と自覚すると吹っ切れたようなおかしさが込み上げてきて自然と口元が緩むのが自分でもわかった。

「しょうがないだろ、やっと叶ったんだ」

 そっと彼女の頬についた涙の跡に触れる。大きく見開かれた瞳は黒曜石みたいだった。

「お前、前に訊いただろ。俺の幸せは何かって。俺はお前が笑ってくれていたら、幸せになってくれたらそれでいい」

 そこまで言って一息つくと、彼女の額に自分のをくっつけた。

「俺と一緒に」

 俺も結局は彼女と同じだった。いつも彼女の幸せばかりを考えていた。でも許されるなら、叶えられるなら、自分の幸せも望んでいいんだろうか。その隣に彼女を望んでもかまわないんだろうか。

「私、常務にも幸せになって欲しいです。それで、そうやってたまにでいいから笑ってください。そしたら私もすごく幸せです」

 涙を零しながら微笑む彼女に色々な感情が相まって顔を近付けると、躊躇いがちに瞳を閉じてくれたのでその薄い唇に自分のを押し当てた。

 頬は冷たいのに唇は温かくてその温もりが心地いい。ゆっくりと唇を離し、改めて目を合わせると彼女は恥ずかしさから伏し目がちになった。そのまま腕の中に閉じ込めてきつく抱きしめる。
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