常務の秘密が知りたくて…
「私、常務のこと幸せに出来ますか?」

 腕の中の彼女が身動ぎしながら尋ねてきて、その発言に毒気を抜かれる。

「お前はまた、人のことばっかり……」

「だって、私はもう幸せですから」

 腕の力を緩めて改めて彼女の顔を見ると、今度は視線を逸らさずにこちらをじっと見つめ返してくれた。笑みをたたえながら晴れ晴れした顔をしている。今まで何度も幸せなのか、と彼女に尋ねてきた。やっと――

「言っただろ、お前が幸せだったら俺はそれでいいんだ。だから、もう二度と離さない。俺の幸せのためにもずっと傍にいろ」

「それは命令ですか?」

「そうだな。ただ個人的なものだから、絶対とは言わない」

「ならお断りします」

 予想外の返答に俺の頭も身体も固まった。するとそれを見て満足したかのように彼女はおかしそうに笑う。

「常務のそんな顔も初めて見ました」

「俺を謀るとはいい度胸じゃねぇか」

「謀ってませんよ。命令されたから従うなんて嫌です。私の意志で傍にいさせてください。私の幸せのために」

 はっきりと告げる彼女の声は力強く、それに応えるように再び口付けた。何度も角度を変えて彼女が降参するまで繰り返す。

 やがてどちらともなく距離をとるとお互いに笑いあった。幸せそうな、俺がずっと見たかった笑顔がそこにあった。

 どうして俺だけ前世の記憶があったのか。辛くて、忘れたくて俺を苦しめるだけのものだったのに。罰なんかじゃない。その顔が見たくて、全てはこのためだったんだとようやく理解することができた。
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