常務の秘密が知りたくて…
 耳をつんざくような悲鳴に視界が暗転する。身体を起こしたいのに、起こすどころか指一本動かせない。目も開けられない。寒い、冷たい――怖い。暗闇にこのまま飲み込まれてしまうんだろうか。

 そのとき、誰かに名前を呼ばれたような気がして微かな温もりを感じた。誰? もしかして……。

 それ以上は何も考えられない。でもこの温もりがひどく私を安心させてくれて、先程まで感じていた恐怖が少しずつ消えていく。大丈夫、私は幸せだから。



 涙の膜で視界が滲む。それでも頬に優しい温もりを感じた。

「ゆ、め?」

「大丈夫か?」

 思いがけず常務の声が至近距離で聞こえて私の目は一気に見開かれた。さらには肘をついて頭を支えた常務がすぐ隣でこちらを見下ろしていたので軽くパニックを起こしそうになる。

 ここは常務の家でこうしてくっつきながら寝て、いわゆる「お泊まり」というものをしたのだ。しかし改めて冷静に向き合ってみるとなんとも恥ずかしくなる。

「泣くぐらい怖い夢でも見たのか?」

 悶々としていると質問が投げ掛けられ常務の指が目元から零れそうな涙を拭ってくれた。くすぐったさを感じながら私は夢を見ていたことに気付く。

 何度か見たことがあるあの夢だ。やけにリアルなのに、いつも起きるとその内容をはっきりと思い出せない。このタイミングでまた見るなんて。

「よく覚えてないんですけどすごく怖くて、けれどなんだか幸せでした」

「変な夢だな」

「そうですね。でも常務がこうして側にいてくれるなら、もう見ないと思います」

 何をもってそう言えるのかはわからない。はっきりとした根拠はないけどどこか確信があった。あまりにもきっぱりと言う私に常務は少し呆れたような顔をした。それでも

「お前が泣かずにすむなら、それでいい」

 目を細めて優しく頬に口付けてくれる。それを皮切りに瞼や目尻、額にと色々なところに唇が落とされて、私は身を固くして緊張しながら受け入れるのが精一杯だった。なんだかこの手慣れた感にどうしてもついていけない。
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