常務の秘密が知りたくて…
 意外にも常務は私が寝るまでずっと抱きしめて手を握っていてくれた。それでも自分の睡眠を削ってまですることだろうか。常務こそ休まないといけないのに。

「私、帰りますからそれからゆっくり寝てください」

 身体を起こして常務の腕の中から抜け出そうとしたが、それは許されなかった。腕の力を強められて、再び私は常務に密着する形になる。

「いいから、おとなしくこのままでいろ」

「でも」

「寝顔をじっくり見ていたかったんだ」

 意識せずとも勝手に体温が上がり、頬が熱くなる。抱きしめられて顔が見えない状況なのが幸いした。こんな顔を見せたら、またからかわれてしまう。

 そもそも常務はこんなことを言う人だっただろうか。そういえば

「常務と私って昔、会ってるんですよね? ごめんなさい。全然覚えてないんですけど、それっていつの話ですか?」

 話を変えるように尋ねると髪を撫でてくれていた常務の手が止まった。

「覚えてないならかまわない」

「でも、言われたら思い出すかもしれませんし」

 前に妹の名前に反応を示したのもやはり知っていたからなんだろうか。常務の話ぶりから相当昔のことなんだろうけど私には全く身に覚えがない。

 常務が覚えていてくれたのに自分は忘れてしまっているなら申し訳ないし、それになんだか寂しい。

「お前の記憶力には期待していないから大丈夫だ」

「何が大丈夫なんですか! せめていつ出会ったのかぐらい教えてください」

「そうだな、お互いに生まれる前の話だ」

 その言葉に私は思いっきりため息をついた。

「またそうやって誤魔化そうとする」

「それに言っただろ? 昔なんて関係ない。今こうしてお前が傍にいるだけで十分だ」

 そう言って額に口付けられる。ああ私、とんでもない人を好きになってしまったようだ。
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