リーダー・ウォーク
困ったときの犬頼み

私は今、幸せ。というやつなのかもしれない。

過去にきちんと別れを告げることもできたし。トリマーの生活も順調に進んでいる。
ずっと不安だった「彼氏」さんとのこれからのあり方も今までみたいな適当じゃなくて
きちんと考えて「彼女」らしく行動しようと思ってる。

「いやぁ。稟ちゃんのおかげで来ることが出来たよ。ありがとう」
「いえいえ」

そんな気持ちの整理をしている真っ最中ですが、仕事のお昼休み中に
上総に誘われ彼が気になっているというドッグカフェにやって来ました。

「30分でいいからチワ丸くんを貸してくれとお願いしたんだけど断られてね」
「ああ。ダメでしょうね。今度は私が言ってみましょうか」
「そうだね。貴方の言うことなら聞くだろう」

犬も連れてない男ひとりでは入りづらいのでそこで稟の登場らしい。
左右ともに犬を連れてランチをしている若い女性たちやカップル。
連れてないお客さんもちらほら居て特に浮いてはない。

「でもこういうワンちゃん多い所は嫌がるかも」
「チワ丸君?人見知り…、いや、犬見知りなのかい?」
「チワ丸ちゃんは興味イッパイなんですけど。崇央さんが嫌なんです」
「なるほど」

犬同士だけで遊ばせるならまだなんとか我慢するそうだけど。
結局は人間同士の付き合いになるから嫌なんだと言っていた。
確かに見ず知らずの人と関わるのは面倒といえば面倒だけど。

「色んな人と知り合うの好きだって言ってたのにな」
「ビジネスの世界と趣味の世界では彼は全くスタンスが違うから」
「全然違いますよね。会社見学に行ってびっくりしました」
「あはは。僕はその趣味の方は見たことがないからな、どうなんだろうね。
貴方に迷惑をかけていないならいいんだけど」
「最初はこっちの予定とか迷惑とか関係なく呼びだされっぱなしでしたけど。
でも今は……、いや、変わらず唐突ですね。でも慣れちゃったから平気です。
文句を言えばきちんと謝ってくれるし。それなりに反省はするみたいだし」

稟が怒っているとご機嫌をとろうとチワ丸をけしかけてみたり。
プレゼント攻撃をしてみたり。美味しいものを買ってきてみたり。
最近はしおらしく甘えてきたり。

「話を聞いていると貴方はまるでしつけ教室の先生のようだね」
「ええっ!ひ、酷くないですか?私がどれだけあの人に振り回されて」
「でも今はそれなりに扱いに長けてきている。崇央も我儘なりに貴方には
嫌われまいと努力しているようだから。うん。素晴らしい手綱さばきだ」
「そんなんじゃないですって」

躾とか何もできてないです。他所じゃ普通に悪態つきまくってるし。
チワ丸は最初から溺愛していて。稟には多少気を使うようになってきた、
というだけのことで。でも兄からしたらそれも大きな変化だと笑っていた。

「この調子で崇央をその気にさせてくれたら有り難いのだけどね」
「その気って。ああ、社長ですか。面倒は嫌だって言ってましたけど」
「いっそ僕が失踪でもしたらその気になってくれるかなあ」
「上総さん?」
「冗談だよ、流石にそこまで無責任には出来ていないから。だけど。
こういうペット可のカフェって昔から憧れなんだ。いいよね、心から癒やされるよ」
「お仕事忙しいですよね、何時でもお付き合いしますから。息抜きも大事ですし。
次はなんとか言いくるめてチワ丸ちゃんを借ります、そしたらもっと癒やされますよ?」
「そうかい。ありがとう。貴方のお陰で良い休憩が取れそうだ」

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