リーダー・ウォーク

松宮家の兄たちからしたら私は我儘な末っ子の調教師なんだろうか。
一応恋人枠のはずなんだけどな。
でも言われてみて何となく自分もそんな気がしてきて嫌だ。
これでもまだ恋愛に夢を見ている方だと思っているので。

会話のネタにしようと店内においてあったペット雑誌を広げて。

「お時間ですか」
「みたいだ。はあ、あっという間だったね。残念ではあるけど次を楽しみしよう」

話が盛り上がってきた所で上総の携帯が震える。何やら深刻そうな顔で画面を
見ているから、このヘンで社長の休憩タイムは終了らしい。

「そうですね。上総さんがまさか本気でカフェがしたいとは思ってなかったから」
「今度僕が淹れたコーヒーをごちそうするよ。…といっても、弟達には不評なんだけど」
「不評なんですか…」
「味じゃなくって。時間がかかりすぎるとかうんちくがうざいとか色々と」
「崇央さんですね」
「そうだね。主に崇央だね」
「すいません、あの人3分以上待つの嫌いなんです」

上総は笑って、また付き合って欲しいと言って店を出て行く。
お会計も一緒に済ませてくれたので稟は残った飲み物を飲んでから
ゆったりとお店を出た。こんな所にお店があったなんて知らなかった。
上総も雑誌を読んで探しているのだろうか。将来のために。

でも彼が本気でドッグカフェを始めたらあの巨大な会社はどうなるんだろう。

恭次さんは進んでは立候補しそうにないようだし。やっぱり崇央さんかな?

社長になったら今以上に会えなくなるのかな。



「チワ丸ちゃんのお洋服買うにあたってサイズを測ります。よろしいですか」

明日はワンちゃん猫ちゃんの祭典がある日。
上総からもらったチケットは割引があったり色々とお得なことがあるらしく
今からワクワクしている。けれど、

飼い主である松宮は今日は懇親会を2件ハシゴして、明日は会議と忙しくて。

今日はもう何時戻れるか分からないからとチワ丸を部屋で預かっている。

「面倒だけどこれもぜーんぶ週末のお泊りの為だって言ってたよチワちゃん。
大丈夫なのかな。予定が潰れちゃったらどうするんだろうね?」

もし潰れたら仕事辞めるって言ってたけど流石に大丈夫だよね?


『もう寝てたか』
「寝てたけど起きた」
『そうか。チワ丸どうだ』
「寝てたけど起きた」
『そうか。ならいい』

電話が来るかもしれないと音を大きめに設定してよかった。
突然鳴り響く着信音に飛び起きる稟とチワ丸。
時計を見たらもう深夜の1時。

「……今終わったんですか」
『ああ』
「そっか」
『何もなければあんたの部屋へ行きたかったが、今日はもうこのままホテルで寝る』
「お疲れ様です」
『そうだよ。めちゃくちゃ疲れた。死ぬほど疲れた。なのにまた会議とかざけんな』
「…私に言われても」
『それもこれも全部あんたとチワ丸の為だ。いいか。そこはちゃんと覚えておけよ』
「わかってますって。ふぁ……」
『眠そうに言うなよこっちはな』
「わかった分かった。もう何でもしますから寝ましょ?ね。はい。ばいばいびー」
『おい!こら!何だよばいば』

何か言ってたけど気にしない。明日は朝はやいから気にしない。

チワ丸ちゃんだって眠そうなのだから。
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