リーダー・ウォーク
お金持ちがバックについていると気持ちも大きくなるようで。
普段なら気後れしてしまいそうな人たちにも果敢にも声をかけていき
セレブ犬とふれあい充実した時間を過ごせた。
やはりお金持ちの犬たちはサロンに通い毛もつやつやで美しく大人しい。
大満足の稟。チワ丸もふれあいが出来たのは良かったようで嬉しそう。

ついさっき大事なものを喪ってウジウジと恨み言をぼやいていたのも忘れて。



「崇央さんみてみて。ワンコの鼻提灯!写メしとかなきゃ」

なれない場所でのグルーミングといろんな犬との触れ合いで疲れ切ったチワ丸は
食事を終えて部屋に戻ってくるなりセッティングされていた自分のベッドにて熟睡。
その様子があまりにかわいくて稟は何枚も写真を撮った。

「一緒に風呂入らないと俺の機嫌は直らない」
「え」

突然何いきなり。怖い顔して。

ずっと黙っていた松宮は稟の手から携帯を奪い彼女のカバンに押し込むと
かなり不機嫌な顔で言う。

「いいか。俺はチワ丸とあんたと3人で楽しみたくてここに来たんだ。
仕事だって急いで片付けてきたんだ。それなのに何だ他の犬にばっか」
「あんなお利口なボーダーとシェルティ見たら感動しません?」
「しない。何故ならば俺はわざわざ感動しにここに来たんじゃないからだ」
「……すみません。つい、興奮してしまいました」

途中から全く喋らなくなったから機嫌は良くないんだろうなぁとは薄々感じていた。
けど、異性に飛びついたわけじゃなくて可愛い賢いワンコに夢中になっただけ。
だけど彼からしたら可愛がっていい犬はチワ丸だけだろうし、その前に俺に構えよと。

「なあ。稟。一緒に風呂。絶対風呂。もう一回今度はちゃんとあんたの体が見たい」
「見てもガッカリしかしないと思いますけど」
「安心しろ。そんなものは見りゃ分かる」
「じゃあ見ないで。あの女子大生の体とか好きなだけみたらいいです」
「怒ってんのは俺なんだ。行こう。手は出さないから。……たぶん」
「足は出すとかいうトンチじゃないでしょうね」
「なるほど」
「……お風呂入るだけですよ」

年齢の割に遊んでる割にこういう時はすぐに拗ねて我儘を言う。
そこを指摘するとまた怒るのでここは大人しく従うことにした。
稟だって確かに犬にばかり構って肝心の彼氏さんを蔑ろにした気もする。
体を許した今、自分たちの関係をもう少しだけすすめてもいいだろう。


「なあ。稟。帰ったらさ、俺の仕事ちょっとだけ手伝ってくれないか」
「え?で、でも。私は流行とかファッションとか疎いですし」

ためたお湯に浸かる松宮の膝に座る稟。明るい所で裸なのは恥ずかしいが
直接向かい合って座ってないだけまだマシだと自分に言い聞かせている。

「そうじゃなくてさ。前にチラっと話したろ?犬のグッズとかサロンとか展開したいって」
「ああ」
「企画書出してさ、ちょっとお伺いたててみようかなって思ってるんだけど」
「良いじゃないですか。お手伝いします」
「ま。そうすんなりとは通らないだろうけど。特にあの真ん中あたりが」
「恭次さんは猫派ですからねー猫グッズも視野に入れたら良いと思います」
「そういう情報どっから仕入れてくるわけ?」
「会話から」
「会話。へえ。会話すんだ。へーーー」
「……あ。い。いや。だめ。触ったらくすぐったいって言ってるのに!あああっ」

たぶんくすぐられてるわけじゃない。ただ抱きしめられているだけ。
なんだけど物凄くくすぐったくて身を捩る。

「何処でどんな会話してるのか俺にも会話してくんないかなぁ」
「やめてーーーっ」
「あんたの弱点わかったから。もう俺に逆らえないよ?わかってる?なあ?」
「やめっ…意地悪っ」
「……悪いのは稟だろ?俺はただ、こうして指で軽くなぞっただけ」

これって関係が進んだというよりも、逆らえない逃れられない関係になっただけじゃ。
旅行は楽しかったはずなのに、女としても一皮むけたはずなのに。

「けだものぉっ」
「あれ。稟。そういうこと言う?」
「……言わない。言わない」
「じゃああんたから俺にキスしようか。俺が良いって言うまでだ」

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