リーダー・ウォーク

 可愛げについて考えながら店の子犬のシャンプーをして
爪切りをして、予約が入っていたプードルのカットをして。
 考え込んでいると就業時間なんてあっという間だった。

父親からのもうすぐ到着するというメールとお父さんをお願いね
という母親からのメールに返事して。彼氏からは詳しい事情は省くが
もち子を預かることになったという連絡まで来た。

 ペットも同席可能のレストランを予約していたそうなので
 今夜は非常に騒がしい食事になりそう。


「え。モチちゃんのキャリー猫耳ついてる…かわいい。何処で買ったんだろう」
「チワ丸のキャリーだって可愛いだろ。特注なんだ」
「もちろんです。お仕事終わりなのに大変でしたね。お疲れ様です」

 ビシッと決めたスーツのイケメンの両手にペットキャリー。
見慣れた光景だったはずだけど、やっぱり面白い。
 チワ丸とモチは大人しくその中で眠っていた。

 次男さんの趣味はとても好き。といったら怒るから言わない。
 車に乗り込み駅まで父を出迎えに向かう。

「稟。ああ、こっちだこっち。いやあ都会の駅は大きくて迷うなぁ」
「お父さん探したよ。なんで待ち合わせ場所から動いちゃうの」
「しょうがないだろうトイレに行きたくなったんだ」
「だったらそう連絡してくれても」
「戻れると思ったんだ。娘にいちいちトイレの報告なんて」
「でもそれで30分くらい行き違いであるき回った」
「悪かったよ。謝るからそんな怖い顔でギャンギャン言うな」

 ここまで怖いくらいスムーズだったのに。まさかの父に会えないなんて。
待ち合わせ場所には居ないしメールには返信がないし、
 都会の駅で何かあったのかと心から心配したのに。まさかのトイレ。

 恥ずかしい、というよりムカムカの方が先立って感情的になる。

「そんな風に適当な事言うからお母さんも怒るんだよ」
「母さんの話は今は関係ないだろ。…あー、松宮さんの前だし」
「あ」

 白熱してしまいすっかり忘れてた。

「俺は面白いから良いけど。チワ丸とモチ子を車に置き去りなんだ。
もう車に戻ってもいいかな。続けたければ好きにして良いから」
「すみません」
「申し訳ない」

 冷静に言われるとこんなにも落ち込むんだな。と思いながら。
彼の背を追うように駐車場まで歩いて駅から出た。

 チワ丸と父にモチという後部座席。
 助手席に座るかと聞いたら遠慮された。


「ふー。やっと店に到着だ」

 ペット可の全席が個室のレストラン。洋食メインだそうだけど
言えば何でもあるとのこと。お店の人に案内されて広い個室へ入る。
 と同時にチワ丸は部屋に開け放たれた。

 慣れているのか暴れることもなく嬉しそうに伸びをするチワ丸。

「モチちゃんは警戒してますね。知らない場所で恭次さん居ないから怖いみたい」
「どうせ飯食べないだろうって言ってたから無理はしないでいい。様子見てやって」
「はい」

 対するモチは不安そうに小さく丸いお餅状態。

「と、言う感じで。慌ただしくしてすいませんね。お義父さん」
「おと」
「お父さん落ち着いて。水こぼしてる」

 今回のメインはわんことにゃんこでなく、父。

「……、すいませんね松宮さん。ちょっと疲れてるみたいで。ははは」
「いえ。どうか楽にしてください。チワ丸も気に入ったみたいだ」
「この子が噂のチワ丸君か。はは、可愛いなぁ」
「気にせず何でも頼んでください。酒はどうですか」
「い、いやあ。申し訳ないが下戸で。この手の洒落た店にも縁がない。
君に注文を任せてもいいだろうか」
「わかりました。稟は?」
「もうバッチリ食べたいもの決まってます。がっちりです」
「稟。お前もう少し遠慮ってもんを」
「良いんですよ、俺そう言うの気にしないんで。
お義父さんも遠慮しないでいいですから」
「このドッグプレートとワン御膳ならどっちがいいでしょうね」
「カロリー的に御膳だな」
「じゃあお店の人呼びますね」
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