リーダー・ウォーク

この超のつく生まれながらのお坊ちゃまが大きな荷物を運びながら
芯から疲れるほど街を歩くことなんてないだろうから、
こんな時どうしたらいいか知らないのは当然といえば当然か。

「……井上さんは今日は」

だけど、あの秘書さんならこの空気をなんとかしてくれるかも。
仕事中だったのなら当然彼も側に居たのだろうし、
もしかしたら運転手をしていて下で待っているのかもしれない。

「何でアイツの名前が出てくるんだ。俺に頼れって言ってるだろ」
「だって」

なんて甘い期待を抱いてを言った途端、松宮の顔がとても怖いものに変わった。
内科とか連れて行かれそうなんだもん。とは冗談でも言いづらい空気に。

「イラつかせんなよ。それとも何?俺にイラついてほしいわけ?そういう趣味?」
「そ、そんな趣味無いですから。ほらチワ丸ちゃんが怖がってる!」
「チワ丸もムカつくだろ?」
「変なこと教えないでください。……じゃ、じゃあ。お昼ごはんが食べたい。です」
「……」
「あの。だって。ほら。…ね?そういう時間だし」

お昼を買いに行く余力なんてないし、自腹で出前とか絶対無理だし。

「……食べたいです?」
「え?…え。……食べさせてください?」
「誰にお願いしてるんだ」
「松宮様」
「あぁ?」
「ガラ悪っ。……、…た、……食べさせてください。…崇央さん」

脅される形でつい言ってしまったけれど、彼は凄いゴキゲンな顔をした。

なんて分かりやすい人なんだろう。

「待ってろ。フルコースを頼んでやる」
「い、いえ!あの!ピザとかでいいんで!」
「そうか。わかった、じゃあすげえ美味いホテルの石窯」
「普通ので!これ!これに電話して崇央さん!」
「……何これ。宅配ピザ?こんな会社知らないけど、いいの?美味いの?」
「美味しいですとっても」
「ふぅん。じゃあ、…頼むか。まってろ」

セレブが宅配ピザを注文する光景というのはとっても新鮮で面白いけれど。
いちいち喧嘩腰に喋り出したあたりで慌てて彼から携帯を奪い、
結局稟が代わりに注文をした。

「チワ丸のオモチャ選んでもらったの全部お気に入りだ」
「良かったです」
「ここにも置いて行く」
「あ。その袋はオモチャだったんだ」

差し入れかと思ったのに全然ちがった。

「あと家とベッドとソファと食器も買ってくるから」
「…は、はい」

やっぱりチワ丸ちゃんは私より断然いい暮らししてる。
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