リーダー・ウォーク

バラバラの席に座ってそれぞれが自分のペースでご飯を食べている。
長く立派なテーブルの上にはそれぞれ美味しそうな普段見ることのないゴチソウ。
これがいつもの食事なのか、稟が居るから特別なのかは分からないけれど。

ナイフとフォークの使い方、これであっているのかちょっと不安。
あと、このパンは素手でガツガツ行ってもいいものか、お代わり自由?
あの真ん中のお肉美味しそうだけど自分で取りに行って良いのか。

「稟ちゃんはトリマーさんだったね。どう?仕事はやはり大変?」

どうしようか聞くに聞けずチラチラと周囲を見ていた稟に上総が声をかける。
席が少し遠いので声が聞こえづらいけれど、なんとか返事ができる範囲。

「体力が必要になるので。そこはちょっとキツイ時もありますけど。好きなことですから」
「はは、犬といってもチワ丸君のような小さいこばかりではないものね」
「はい。でも、大きい子も可愛くて良いですよ」
「井上君が飼っている熊八と伊太郎くらいしか知らないんだけど、どちらも賢くてイイコだ」
「伊太郎…」

あれかな、熊八の相棒?ラブの方かな?どっちにしろ凄いネーミング。

「あのさあ。飯食ってるんで、静かにしてもらってもいいですか?」
「兄さんにそんな口の聞き方があるか」
「あんたには喋ってないだろ?黙ってろようぜえから」
「崇央っ」
「まあまあ。落ち着いて、そうだね。食べている時にあまり長々と話しかけるのも失礼だ」
「いえ。あの、お気になさらずに」

険悪だ。これは、凄い険悪。
というかこの感じだと険悪にしているのは三男のような気がする。
次男は黙っていれば何も言わず黙っているみたいだから。

「足りないものがあればすぐに補充してもらうから、言ってくださいね」
「ありがとうございます。とっても美味しいです」
「良かった。ああ、そうだ恭次。うちの会社も協賛している犬猫のイベントがあったよね」
「ワンニャン博覧館ですか」
「あ。知ってます。ポスターみました。ドームを貸しきって
世界のわんちゃんねこちゃんが集結してご飯やオモチャなどの促進会もあるそうで。
前売りチケットはもう売り切れてたんですよね」

興味があるけれど行くとなると出費面で中々難しいかもしれないと諦めていた。
最近は余裕があるとはいえ、やっぱり交通費とか当日券とか。
あと中に入ったら絶対何かしら買ってしまうだろうし。犬も猫も手元には居ないのに。

「それならスポンサー枠で貰ったチケットを差し上げますよ」
「ええっい、いいですか?」
「僕は行けそうにないですし。恭次も行かないでしょうしね」
「崇央もその日は会議があるから無理だしな」
「いちいち嫌味ったらしく言うなよ。いい年した奴が」
「いちいち言ってやらないとすぐ忘れて遊び呆けるような男のほうがどうかと思うが?」
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