リーダー・ウォーク

「いえ。あの、広すぎてちょっと迷っちゃってて」
「飯はもういい?」
「はい。ごちそうさまでした」
「部屋戻るぞ。ここに居てもつまらないだけだ」
「じゃあ一言」
「いいよ別に」
「でも」
「いいって。どうせ他人に興味なんてないんだ」

そう言って稟の手を掴むとさっさと部屋に向かって歩き出す松宮。
もう片方の手にはお腹いっぱい食べて満足そうなチワ丸がいた。
何も言わずに出てきてそのまま戻らないのは良くないと思うけれど。
彼の手はしっかりと稟を掴んで離さない。

結局素直に松宮の部屋まで戻りチワ丸を床に下ろして自由に遊ばせる。
食後のお遊びはお気に入りのボールをカミカミ。

それをぼんやりと人間用のソファに座って眺めていた稟。

「チワ丸ちゃんは元気だなあ」

家族の食事ってもっと距離が近いと思っていた。
あれじゃまるで偶然相席になっただけの他人みたい。

子どもみたいに文句をガミガミ言い合うよりも存在を無視しあう方が酷い気がする。
上総はまだ何とかしようという気持ちはあるようだけど、
でもそれってもしかしたら自分が長男だからという気持ちだけなのかもしれない。

大事な弟達、というのも根底にはあるのかもしれないけど。
なにせトップになったばかりなのにそれを弟に何とかして押し付けようとしている。

私はその片棒を担がされようとしているわけで。あれ、ヤバイ?

「なにぼーっとしてんだ」
「チワ丸ちゃんのお尻可愛いなって」

考えこんでいたら隣に松宮が座った。かなり近い距離。

「…あのオッサンに何かされた?」
「へっ」

やばい、もしかして察してる!?
稟はビクっと体を震わせちょっとだけ離れた。

「されたのかって聞いてんだ。答えろよ」

だがすぐに抱き寄せられて、彼が上に乗しかかってきた。
それでそのまま抱きついてくるわけではなくてただ自分の体を使って
稟の逃亡を阻止するように。

「い、いえ。なにも」
「ほんとに?あんた、あのおっさんに興味あるんじゃないか?俺が誘った時は
こんなふわふわした格好してこねえし、メイクも適当なのに。気合入れてさ」
「ドッグランへ行くのとご自宅にお呼ばれするのは違います」
「じゃあ俺がチワ丸抜きで誘ったらあんたはお人形さんのようにしてくるのか」
「そういうのは貴方が何時もお世話になっている美人さんと行けばいいでしょう?」

見栄を張るお飾りとしてか楽しむオモチャかは知らないが、
そんな事まで自分はしたくない。

「なんだよ。……俺じゃ、…嫌なのか」
「嫌っていうか。何もこんなしょぼい女連れて行くことないでしょ?」
「ショボくてもいい。あんたともっと、その、会う機会が欲しい」
「今までも結構会っていると思いますけど」
「わかった。正直に言う」
「何ですかもう」
「怒るなよ」
「重たいんです。あと、睨まれて怖い」
「のしかかってねえだろ。あと睨んでない。…見てるだけだ」
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