リーダー・ウォーク

松宮からまっすぐに向けられる視線を何とかそらすくらいには自由がある。
稟は横を向いて違うものを見ようとするけれど、チワ丸はオモチャに夢中。
いくら稟が手で押したってどうせ解除はできないのなら、この体制のまま
大人しく気が済むようにさせてやるのが一番ラクだろう。

「それで。…何ですか」

何を正直に言うんですか?

「あんたを家に呼んだのはそのまま俺の部屋に泊めて、押し倒そうと思ってた」
「帰る!今すぐ帰る!私はそんなことのために来たんじゃ」
「本音はそれだけど、それだとあんたは怒って二度と俺の電話を取らなくなる」
「当たり前でしょう!」
「だから、本音は隠しておくから。…俺を愛して欲しいんだけど、駄目か?」
「まるっと本音駄々漏れの時点で駄目も何もないでしょ」

いい雰囲気に持ち込んで愛して欲しいなんてしれっと言って。
流されてハイなんて言おうものなら否応なしに遊ばれる未来しか見えない。
やっぱりソウイウコト目当てだったんだ。それでいきなり家になんか呼んで。

「そう言うと思ってた」
「だったら」
「だから言い出しにくかった。俺あんまり真面目に口説くってしたことないから。
何もしなくても女は勝手に寄ってくるし?」
「自慢されても」

そりゃ良家の坊ちゃまでこんなにカッコいいなら女の人はきりなく来るだろう。
このナルシスト野郎とかしか思えないんですけど。

「だから。あんたが俺を愛してくれるまで側にいて。あんたに近づく男を潰す」
「……」
「かたっぱしから。…ぶっ潰す」

あ、これ目がマジだ。アハハ冗談でーす☆とかの乗りじゃない。

そもそもそんなキャラでもないよねこの人は。

「……」
「そうしてりゃあんたには俺しか居ないって分かるよな」
「崇央さん。ひとつ確認してもいい?」
「なに」
「私が貴方を愛するとして、貴方は私を愛してるの?」

そんな子どもっぽく怒っているけど。肝心の言葉が聞こえてこない。

「分かるだろ?」
「ぜんっぜん」
「……」
「貴方の言いたいことが何にも伝わってこない。貴方は愛して欲しいみたいですけど
愛してくれなきゃ愛せないし、
私を愛してくれてない人を無理やりに愛してみてもそれは本当の愛じゃない」

つまりは今のままじゃ私は何も出来ません、と。

「こ。こんなに俺が紳士的に接しててもあんただけを特別に扱っても!?何も!?」
「そんな大声出さないでくださいびっくりした」
「少しくらいは自分は違うかもって思わなかった?」
「ぜーーーんぜん思わなかった」

特別かどうかは他の人との差をみてないからわかりづらいけど、

優しさとか気遣いとか、ちょっと可愛いところなんかを側で見ていて
ちょっとだけ浮かれてて、少しだけ期待してた自分がいたのは事実。

だからこれは嘘。

だけどここまで来たらしらを切り通してやる。
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