リーダー・ウォーク
世話係継続中

「そうか」
「そう」

稟の直ぐ側で松宮が心底がっかりした顔をしている。
彼なりに稟と接していて手応えというか、自分の気持の少しくらいは
彼女に届いていると思っていたようだ。
それがまったく届いてないとはっきりと言われて。

「いい加減生活水準を縄文時代から抜けだせよ。…もう少し、俺に合わせろ」
「私がそんな器用な人間だと思いますか?ご自分が合わせたらいかがですか?」
「言うようになったじゃねえか」
「生意気なのが売りになってきてますから」

お互いに視線を合わせ、苦笑しあう。

「稟。……俺が悪かった。ちゃんと伝わってないなら、言うよ」
「はい」
「好き……、いや。愛してる。だから稟にも俺を愛して欲しい。
それが無理なら、叶わないなら。ずっとあんたにつきまとってやる」
「こわっ」

それを怒る様子もなく真顔でサラッと言ってのけた。
経済力と発言権のあるお家に住んでいるだけにこれは真面目にヤバイ。

「一時の暇つぶしでオモチャが欲しいわけじゃない。分かるよな?」
「……」

耳元でそんな事を囁かれてこっちもヤバイ。

「返事ちょうだい。それによって俺の行動が変わるんだ」
「え。返事を待つという選択肢は」
「ねえな。俺は待つのが嫌いだって知ってるだろ?」
「……ええ」
「今は無理、と言ってもらってもいい。ただし断ったら覚えておけ」

覚えるって何を?どうするつもりですか?いちいち怖いんですけど。
選択肢をだしてくれて、YESしか受け付けないわけでもないのに。
結局はYESが一番よい選択肢になるように仕向けられている。

あとなんとなくだけど、断ったら仕事を失う気がする。

稟が解雇、ではなくて会社が崩壊する意味で。

私のトリマー人生が今ひとりのセレブによって崩壊させられようとしている。

「そ、そんな強引に答えを迫って大人として恥ずかしくないですか!?
もっとこう段取りとか!時間と心に余裕を持って」
「欲しいものは諦めないタチなだけ。これでもまだ余裕があるほうだ」
「……」
「無かったらあんたに傷をつけてでもモノにするが、それでもいいか」
「よくない」

人生どころか体に傷がつく。

「で。どうなんだ?…返事。しろ」
「ひとつ質問」
「なに」
「この前一緒に遊んでたモデルさんみたいな美人さん」
「居たなそんなの」
「仲いいみたいですけど。彼女じゃ駄目ですか?」

向こうはかなり貴方を特別視していたけど。稟に威嚇までして。

「言ったろ?ああいうのはお飾り。向こうもよりよい相手を探してる」
「でも」
「今はあんなのに構う場合か?俺はあんたの返事を大人しく待ってやってるのに。
断る理由を探してるっていうなら無駄なあがきだぞ?」
「……」
「そんな焦らすなら、キスでもして暇つぶししてようか?」

返答に困っている稟の顎を軽く指で持ち上げ上を向かせる。
特に暴れることも嫌がることもせず見つめている稟。

「……」
「何だその欲しそうな顔。……じゃあ、…キスするからな」

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