リーダー・ウォーク

稟の唇に当たる温かく柔らかな感触。

「何だ。ほんとにキス、出来るんだな…」
「……」
「でもそのフグみたいなツラをどうにかしてくれよ。何か、萎える」
「……」

ただし、稟は口をすぼめ頬をパンパンに膨らませ見た目なんてド返しで
「いい雰囲気には絶対しないぞ」という構えを崩さない。

「おい。こら。何時までフグってんだよ。なんか喋れよ。ハイって言えよ。
ここまでやって嫌だとか無理とか言いやがったら」
「はい」
「それは返事ってことか?」
「はい。そうです」
「そう。じゃあ。いいんだな。まあ、脅されたんだしそう言うしかないよな」
「脅されなくても普通に告白してくれたらハイって言いましたけどね」
「はあ!?それは嘘だな。あんた俺の気持ちとか全然分かってなかったんだろ」
「分かってなくっても素直に気持ちを言ってくれたら嬉しかったし頷きました」
「な、なんだよ。意味わかんないんだよ!」
「嫌ですか?やめるなら今ですよ?」
「止めない」

膨らませた顔は戻したけれど、未だ松宮は稟を開放しない。
彼が望む答えを出したにも関わらず。

「崇央さんがそんなに私が良いって思ってくれるなら。私も崇央さんが好きだし」
「……」
「とか言ったら嬉しい?」
「いちいち聞くな。嬉しくないわけないだろ。他の女ならすげー喜ぶことでも
あんたは喜ばないから。てっきり…ビジネスと割り切られてると思ってたから」
「冷蔵庫はすっごい嬉しかったです。喜んで今アイスとかイッパイです」
「煩い原始人」
「あれ退化した」

稟の返事を聞いてはにかみながらおでこにキスする。とても優しいもの。
お返し、というのはヘンかもしれないけれど。
そっと彼を抱きしめ返し、その胸に顔を埋める。松宮の匂いと香水の混じった
甘く、どこか落ち着く香り。あと微かにチワ丸の匂いもする。

「あ。のさ。無意識なんだろうが、…そういうの、すると」
「だめ?」
「いや。……こういう感じで」
「え。どういう感………う。…うっ!?」

ぐっと抱きしめられたら何かお腹に当たるんですけど。

「…なあ」
「チワ丸ちゃんのクローゼット考えましょう。今すぐに」
「駄目か」
「だめ」
「わかった。じゃあ。パンフを幾つか手に入れたんだ、選んでくれないか」
「崇央さんの希望は?」
「面倒じゃなかったらなんでも良い。ああ、でもチワ丸の用品は多いし、
これからも気に入ったらなんでも買うから。あんまり小さくてショボいのはナシ」
「なるほど」
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