リーダー・ウォーク

自分から電話して相手を誘うなんてことなんてしたことなかった。
でも、今日は勇気を出して一緒に食事しようと思う。
チワ丸も大丈夫なように先輩からペット可のお店を教えてもらった。
仕事を終えて着替えを済ませて、何度目かの深呼吸の後。

『悪い、すぐに取れなくて』
「いえ。忙しいんですよね」
『どうした。電話なんて、初めてじゃないか?』
「そんな気もします。あの、今日は難しそうなので。また今度でも一緒に夕飯」
『マジで?あ。じゃ、じゃあ。ちょっとまってくれるか。今外出ててさ、終わったらそっち行く』
「大丈夫ですか?」
『30分くらいで行くから。待っててくれ』

一度コールして繋がらなくて、忙しいのだろうと諦めて帰ろうとしたらすぐ折り返しがきた。
30分くらいなら店の近くの本屋で適当に雑誌をながめながら待てるだろう。

捨てられるとか最初はそんな事考えもしなかった。

ネガティブになって不安が大きくなるのはなんでだろう。

その理由を知りたくて、あと、彼に会いたくて。



「ほら。ちゃんとデートするんだから、もういいだろ?帰れ」

30分後、彼はちゃんと稟がメールをした場所に来てくれた。
けどそのとなりにはチワ丸じゃなくて前回とはまた別の美女。

「やっぱ汐里さんの言ってたとおりなんだ」
「見世物じゃないんだ。ほら、帰れ。タクシー拾えるだろ」
「だって崇央サンの彼女なんて超レアじゃないですか。そっかそっか。こういう感じ」

女の人はウンウン頷いて満足したのかさっさとタクシーを呼んで去っていく。
残ったのは稟と松宮と、彼女の強烈な香水の香りだけ。

「悪かったな。うるさくて。さ、行こう」
「……」
「ごめんって。ちゃんと説明するから、まずは車乗って」
「私だけ特別なんてやっぱり嘘ですよね」
「嘘じゃない。あれは、仕事の」
「……」
「じゃあいいよ今は信じてくれなくて。とにかく車乗ってくれよせっかくきたんだしさ」

動かない稟に業を煮やしたのか強引に手を掴み車にのせる。
すぐ鍵をして彼女が動く前に車を走らせて。
何処までも車は走る。何処へ行くか伝えてないのに。

「……」
「こうして走り続けてりゃあんたは何処へも行けない。俺の隣」
「……」
「黙ってたらいいさ。俺が勝手に話してる」
「……お腹すいた」
「俺の言い分を聞いてあんたが納得したら飯だ」
「もういいです、納得したから飯だ」
「誤解を納得するな」

夕方の街を何処までも走る車。
稟は視線を外へ向けてぼんやりとして、そっとお腹を撫でた。
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